フィレンツェの恋人~L'amore vero~
だから成績も伸びないし、御曹司という立場を利用して、金を使いたい放題にしている。


そんな人間が次期社長にふさわしいものか。


あの息子が社長にでもなってみろ。


鷹司の時代は一気に終わりを迎えるだろうな、と。


そんな噂を耳に入れた鷹司一郎は、会長が亡き今、一刻も早く後継者として成長してもらわなければ困ると、煌に見張り役の付き人をあてがったらしい。


大学の授業以外は、全ての時間と言っても過言ではないほど父親の側に置かれるようになった煌は、常に見張られているストレスから肉体的にも精神的にもくたくたになった。


――あの煌が電話に出ないなんてよっぽどだってパスカルが嘆いていたわ


我慢の限界に達した煌は、父親に交渉したらしい。


一日でいいから、休みをくれないか。


会いたい人がいる、と。


でも、そう簡単に許してはもらえなかったのだ。


父親の元で経営を学びながら、次の試験でトップの成績をつること。


――それが、煌に課せられた条件だったらしいの


煌は大学の授業と経営を学ぶ傍らで、時間を見つけては寝る間も惜しんで勉強をして、先日の試験で本当にトップをとったらしい。


――でも、華穂には言うなって、煌が言っていたみたいなのよ


理由を知ったら、華穂は自分を責めて、自分のせいだと思い込んで、僕に会ってくれなくなるかもしれないだろう。


それでは困るんだ。


華穂とは約束があるからね。


約束が。


と、煌は試験でトップの成績をとった日の夜、パスカルに電話をしてきたのだそうだ。


「……Promis (約束)」


煌の寝顔に呟いた私に、ジョゼットが小声で聞いてきた。


「Qu'avez-vous promis? (どんな約束をしたの?)」


教えなさい、とジョゼットが冷やかすように私を肩で小突いた。


私はつんとして答えた。


「Secret (秘密)」


「Ouf! (やれやれ)」


日本人は秘密主義者ばかりね、と涼しげに笑いながらジョゼットが静かに立ち上がる。

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