フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「君の態度、あからさまなんだよ。華穂」


え……。


唇は動くのに、声が出せない。


「さっき、僕を突き放そうとしただろう」


ああ。


やっぱり、煌には敵わない。


本当に繊細な人だもの。


全て、お見通しだったのね。


「なぜ、僕から目を反らしたの」


ごくり。


と、真夜中の空気を飲み込む。


それだけで精一杯だった。


本当に戸惑った。


「ごめんなさい、煌」


謝ることと、あの時、あからさまに目を反らしてしまった事を後悔することで、本当に精一杯だった。


何か切り抜けられるような言い訳を考えようなんて、そんな余裕もないくらいに。


「ごめんなさい」


「なぜ……謝るんだ!」


ダン!


「どういう意味だ!」


その音と衝撃に弾き飛ばされるかのように、私の体は素直に委縮した。


決して脅えたわけではない。


ただ、本当に信じられなかっただけだ。


ギッ、と軋んだドアから、私は一歩ゆっくりと後ずさった。


出逢ったあの日から今日まで。


いつだって、どんな時だって、煌は冷静で穏やかで。


彼が醸し出し身にまとう空気は常に清潔で、やわらかくて、優しくて。


感情的な声を出したことなどなかった。


いつだっておおらかで。


無防備な笑顔を絶やさない男の人だったから。


「C'est assez! (もう、たくさんだ!)」


怒鳴るような、落雷のような、嗚咽のような。


感情的なその声に、私は困惑し戸惑うしかなかった。

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