フィレンツェの恋人~L'amore vero~
私も、好きよ。


煌。


あなたのことが。


好き。


とても。


たまらなく、好きよ。


目で訴える事も、心の中で言う事も、心の中でなら、叫ぶ事もこんなに簡単なのに。


なぜだかそれを声にする事ができない。


「困ったね」


煌は私の目をじっと見つめながら困惑気味に、でも、やわらかく微笑んで、


「それじゃあ、分からないよ」


と今度は本当に弱った顔になり、最終的には深刻そうに眉頭を寄せた。


「はっきり断ってくれて構わない。しつこくしたりはしない。君が嫌がる事は絶対にしないから……君の正直な気持ちを教えて欲しい」


華穂。


たんぽぽの綿毛をふうっと吹き飛ばすような声で私の名前を呼びながら、煌は親指の腹で私の頬を伝う涙をすくい取った。


「この涙の理由を教えて」


「……あっ」


煌の指が涙をすくい取った直後ある事が脳裏を横切り、頭と体がほとんど同時に過剰反応して、


「私っ……」


私はハタと我に返り煌の体を押し離していた。


「僕のこの想いが1年後の君の重荷になると思うのなら、きっぱり言ってくれて構わない」


煌は、きっと、気付いている。


「迷惑なら迷惑だと言ってくれて構わないから」


今、私の脳裏を横切った事を、煌はきっと分かっている。


絶対に、分かっている。


煌は頭の良い人だから。


聡明な人だもの。


「君がもう会いたくないとはっきり言ってくれたら、こうして会いに来たりしない。もう、連絡もしない」


煌は、とても、繊細な人だもの。


「諦めるから。二度と、君の前に現れたりしない」


mais(でも)、と続けながら、煌が一歩詰め寄って来た。


「僕を困らせないで」


と、煌は苦しそうな表情で私の右の頬を大きな手で包み込んだ。


「煌、私は……」


「華穂」


そして、真剣な眼差しで見つめながら、言った。
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