フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「華穂」
「……なければ……よかった……」
「え……」
海の水が静かに引いて行くように、私の体を支えていた煌の腕が離れて行った。
一度、煌から目を反らし、
「フランスに……パリに、留学なんてして来なければよかった」
声を上ずらせながら顔を上げる。
「ここに来たりしなければ……あなたに出逢わずに済んだのに」
「本当に、そんなこと」
聞いてきた煌はまるで捨て猫が寂しさに震えているような目をして、
「本当に、そう思ってるの。君は」
私の顔を覗き込んで来た。
だから、私はすり抜けるようにあからさまに目を反らした。
真っ直ぐで誠実なその瞳を見つめ返して嘘をつく勇気などなかったから。
「……本当よ。本当」
もし、叶うのなら。
この、パリという地ではなく。
「後悔だらけよ」
平凡でありがちな、つまらなくてありふれた、ベタな出逢い方でいいから。
時間や期限など一切考えずに済む地で、出逢いたかった。
身分や位も同じような、決して裕福など望まないから。
人並みの男と女として、出逢えていたら。
この世界にはあふれるほど男の人がいるというのに。
よりによって、なぜ……。
「どうして……あなたなのよ……煌」
なぜ、あなたでなければならなかったの。
煌。
私はうつむきながら煌のスーツをむしるように掴んで、奥歯を噛んだ。
留学先なら、他にもあるのに。
わざわざ、パリじゃなくても良かったなずなのに。
「どうして私は……パリへ来てしまったの」
パリに来たりしなければ、煌と出逢うこともなかったのだろう。
そして、こんなふうに胸を熱く焦がしたり、潰れてしまいそうなほど切ない想いもせずに済んだのだろう。
「あなたには、出逢いたくなかったわ」
胸が張り裂けそうになりながら、私は煌を突き飛ばすように押し返した。
「出逢わなければ……」
そして、一度言葉を飲み込んで、吐き出すように言った。
「好きになることもなかったのに」
「……なければ……よかった……」
「え……」
海の水が静かに引いて行くように、私の体を支えていた煌の腕が離れて行った。
一度、煌から目を反らし、
「フランスに……パリに、留学なんてして来なければよかった」
声を上ずらせながら顔を上げる。
「ここに来たりしなければ……あなたに出逢わずに済んだのに」
「本当に、そんなこと」
聞いてきた煌はまるで捨て猫が寂しさに震えているような目をして、
「本当に、そう思ってるの。君は」
私の顔を覗き込んで来た。
だから、私はすり抜けるようにあからさまに目を反らした。
真っ直ぐで誠実なその瞳を見つめ返して嘘をつく勇気などなかったから。
「……本当よ。本当」
もし、叶うのなら。
この、パリという地ではなく。
「後悔だらけよ」
平凡でありがちな、つまらなくてありふれた、ベタな出逢い方でいいから。
時間や期限など一切考えずに済む地で、出逢いたかった。
身分や位も同じような、決して裕福など望まないから。
人並みの男と女として、出逢えていたら。
この世界にはあふれるほど男の人がいるというのに。
よりによって、なぜ……。
「どうして……あなたなのよ……煌」
なぜ、あなたでなければならなかったの。
煌。
私はうつむきながら煌のスーツをむしるように掴んで、奥歯を噛んだ。
留学先なら、他にもあるのに。
わざわざ、パリじゃなくても良かったなずなのに。
「どうして私は……パリへ来てしまったの」
パリに来たりしなければ、煌と出逢うこともなかったのだろう。
そして、こんなふうに胸を熱く焦がしたり、潰れてしまいそうなほど切ない想いもせずに済んだのだろう。
「あなたには、出逢いたくなかったわ」
胸が張り裂けそうになりながら、私は煌を突き飛ばすように押し返した。
「出逢わなければ……」
そして、一度言葉を飲み込んで、吐き出すように言った。
「好きになることもなかったのに」