フィレンツェの恋人~L'amore vero~
私が次に恋に落ちる舞台は、日本の片隅のはずだった。


生まれ育った東京の片隅で、友人の紹介か何か、あるいはバイト先や就職先の同僚だったりで出逢う。


その人は私と同じような極平凡な一般家庭に生まれ、育った人で。


友達から始まって、次第に意識し出して、恋人になって。


ケンカしたり仲直りを繰り返して、だけど、比較的穏やかな数年を一緒に過ごして。


それなりにお互いのことを知り尽くした頃、そろそろ結婚しようか、なんて話が出て来て。


一緒になって、共働きで、いずれ子供を授かって。


お金持ちになんてならなくてもいいから、普通に食べて行けるような生活で。


子供も大きくなって、第二の人生が始まって、それで人生の最期にはこう思う。


平凡な人生だったけれど、幸せだったなあって。


そういう未来予想図を描いていた。


「僕も」


と煌が私の右手首を掴んで、ぐいとたぐり寄せた。


「僕も……君と出逢いたくなかったよ、華穂」


その声にギシと胸が軋んで、


「え……?」


私は顔を上げながら、煌の目を見つめ返してしまった事に、またひとつ後悔を重ねた。


「君に出逢わずにいられたら、こんな事にならなかったのに」


ずるい。


女の涙は最大の武器だと人は言うものだけれど。


目にたっぷりの涙を膨らませ、傷付いたような男の瞳は。


もっと、ずっと。


「なぜ、僕は……こんなに君を好きになってしまったのかな」


ずるい。


「君にだけは出逢いたくなかった」


そう言った、次の瞬間、


「えっ、ちょっと、煌!」


突然、煌は奪うように私の手を掴んで寝室に入り、


「なにするの、離して!」


「好きな女を簡単に離す馬鹿な男なんていない」


乱暴に締めたドアに私の背中を押しつけて、鍵を掛けた。


「後悔したって、もう遅い。どうにもならない。出逢ってしまったものを今更取り消すなんてこと……」


私はたまらず息を飲んだ。

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