フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「でも、私は……このままパリに居る事はできないのよ。だって、春には日本へ」


戻らなければいけない。


帰国しなければならない。


今、ここで気持ちを通じ合わせる事は簡単だと思う。


けれど、そうしてしまったらきっと、ずっと一緒に居たいと思ってしまう。


ずっと一緒に居たいけれど。


こればかりはどうにもならない事で、そういうわけにはいかないもの。


「日本へ帰らないわけにはいかないの」


「分かってるよ。ちゃんと分かっているから。ちゃんと、考えているから。僕はそこまで馬鹿じゃない」


始めから無理だなんて決めつけないでくれないか、と煌はぎこちなく微笑んだ。


「大丈夫。絶対に会えないような距離じゃない。12時間もあれば、またすぐに会える」


「……え?」


煌のスーツの胸元を掴んだまま目を見開くと、


「会いに行くよ、僕が」


と煌が私に見せたものは、やっぱり無防備な笑顔だった。


警戒心も疑心も何も含まれてなどいない、無防備な。


「今度は僕が、日本へ行こう。君に会いに行くよ」


「……本気? 本気でそんな事……」


私はふにゃふにゃと情けない声で言いながら、たぐり寄せるように彼のスーツを引っ張った。


ああ、と頷いた煌を睨むように見上げる。


「僕は、本気だよ」


冗談でこんなふうに必死になって、君を口説いていると思うの?


と、聞かれ、私はふるるっと首を振った。


「でも、私……遠距離だなんて……」


「自信、ない?」


煌は私の泣き顔に貼りついたひと筋の髪の毛を指で払いながら、


「それも心配いらない」


そう言って、静かに、私の左目尻に唇を押し当てた。
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