フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「軽蔑、しないわ」


ネクタイの結び目をむしり取るように引っ張ると、煌は少し驚いたような顔をした直後、困ったようなくすぐったいような、不思議な微笑み方をした。


シュッと音がして、ネクタイがほどける。


ほどけたネクタイを捨てるようにベッドサイドへ放ると、煌が目を細めた。


少しだけ無防備に露わになった煌の首元が妙に色っぽくて、噛み付きたくなった。


「今、ここで……奪って」


そして、あなたの事しか考えられないような、ふしだらな体にして欲しい。


他の事など一切考えられないような、煌でいっぱいの頭にして欲しい。


狂ってしまいたい。


そんな事を思う私は。


世界一、節操のない女なのかもしれない。


「Parlez moi d'amour……Kou」


愛している、と言って、煌。


煌は切なげに眉根を寄せながら、私の耳に囁いた。


「Je t'aime de mon coeur」


心から、君を、愛している、と。


どちらからともなく交わしたキスはまるで、互いにその好意が初めてのように遠慮がちで、酷くぎこちなくて。


「「へたくそ」」


私たちは同時に言い、同時に小さく吹き出した。


ぎこちなく始まったキスは次第に大人の深いものへと変わっていき、あとはもう、歯止めが効かなかった。


私はこれが初めてではなかったし、たぶん、煌も初めてではないと思う。


やっぱり、私たちは互いに立派な大人の体で、誰から教わったわけでもないのに、その行為をちゃんと熟知していた。


優しくやわらかな月明かりがたなびくように射し込む、ぽわりと仄明るい空間。


とてもこの世とは思えない、悲しすぎるほど静かな静かな夜だった。


不自然なほどシンとした一室。


私のすすり泣くような、でも、恍惚とした声と、彼の苦しそうで甘ったるい、乱れに乱れた息づかいがだけが混ざり合う。
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