フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「じゃあ、もうひとつ」


私は煌の腕から頭を持ち上げて、腹ばいになりながら聞いた。


「別れた理由は?」


「……」


シン、と静まり返る。


「ほら、急に冷めたとか、浮気したとかされたとか」


追求するように聞いても、すぐに返答はなかった。


私は目を閉じ続けている煌の横顔をじっと見つめ続けた。


しばらくして、観念したように煌が唇を開いた。


「どの女性も、泥だらけの土足で、人の心の中にずかずか入って来ようとしたからだよ」


人には触れられたくない部分があるだろう、と、その口調はとげとげしくて明らかに不機嫌だった。


「だから、排除しただけだ」


そして、残酷だった。


「排除……だなんて……」


「でも、華穂は」


と言った次の瞬間、煌はぱくりと目を開き、天井を見つめたまま、


「……君は、違った」


やわらかないつもの口調に戻った。


「どう、違ったの?」


私が躊躇しながら答えると、煌は「うん」と頷いた。


その瞳が月明かりを吸収しながら煌めく。


「君はきちんと靴を脱いで、おじゃましますって挨拶をして一礼して、僕の心の中に入って来た。それで、片隅にちょこんと正座していたんだ。僕の邪魔にならないように、さりげなく、そこに座っていたんだ」


その瞳の輝きさえ眩しくて、私は煌の横顔を見つめながら目を細めた。


「気付いたら、君は居たんだよ」


ここにね、そう言いながら、煌は私の手を掴んで、手のひらを自分の胸に乗せた。


手のひらに、煌の鼓動が触れる。


「君は不思議な女性だね。どうやって入って来たの」


そう言って見つめてきた煌の瞳は、どんな最高級の宝石よりも美しくて、つやつやと光沢を放って、眩しくて。


「秘密よ」


だから、私はその眩さに目を細めて、照れ隠しにけらけら笑って答えた。


「女のトップシークレット」
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