フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「そんな話をした事があったね」


一点を見つめて瞬きもせず天井を見上げるその横顔は、なぜだかとても寂しそうに見える。


「……ごめんなさい」


触れられたくない局部に、私は触れてしまったのかもしれない。


「深い意味はないの。ただ、何となくふと聞いてみたくなっただけ。煌の横顔、とても綺麗だと思ったから」


「……僕の?」


驚いたようにぎょっとして見つめてきた煌に、私は頷きながら微笑んだ。


「ええ、そう。だから、言いたくない事だったのなら、無理に答えなくてもいいから」


と、取り繕うように言うと、


「君に隠すような事なんて無いよ、ひとつも」


煌は天井をぼんやりとした目で見上げながら、


「君が知りたいというのなら、何でも話すよ」


と、途切れ途切れに話し始めた。


「僕は、母親似なんだ。目も、鼻も、口も、輪郭も」


「そうなの」


「ああ。だから、もしかしたら似ているのかもしれないね……僕とあいつは」


「じゃあ」


腹ばいの体勢を反転させ、煌の腕枕に頭を乗せ直して、私も天井を見つめた。


「煌たちは、母親似なのね。どちらも」


「……そういう事になるのかな。でも、弟は特に、母に良く似ている。目の形が、まるっきりそっくりなんだ。たしか」


「そう」


「でも」


「え?」


「似ているけれど、ひとつだけ、明らかに違う部分があるんだ」


「どこ?」


一拍あって、煌が答えた。


「瞳の、色。僕も弟も真っ黒だけど。母の瞳は水色なんだ」


思わず、不意に「えっ」と声が漏れてしまった。


見ると、煌は真っ黒な瞳を輝かせて天井を見つめ続けながら言う。


「まるで……Amalfiの海の色をしているんだ」


「アマルフィ?」


「そう。イタリアのアマルフィ。世界一美しいと謳われる海岸」


「煌、行った事があるの?」


「いや、ない。ネットで検索して画像を見た事があるだけ」


少し会話が途切れて、再び、煌が話し始めた。
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