フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「僕の母は生まれも育ちも日本だけど、日本人とイタリア人のクオーターなんだ」


「クオーター?」


うん、と煌が頷いた。


「母の祖母がイタリア人で、アマルフィに生まれた女性なんだ」


「そうだったの」


私は煌の横顔から視線を戻し、天井を見つめた。


「水色の瞳、か……アマルフィってどんなところなのかしら」


想像を膨らませてみるものの、ネットでさえ見た事のないアマルフィの海の色など、やっぱり分からない。


「きっと、とても美しいのでしょうね」


だけど、なんとなく、少しだけ分かったような気がした。


なぜ、煌がいつも“水色”に執着を見せるのか。


執着してしまうほど、煌の中の水色というものは美しいのだろう。


アマルフィの海も、煌の母親の瞳の色も。


「僕も、母のような水色の瞳になりたかったな」


「なぜ?」


「水色のフィルター越しに見る景色はどんな感じなのだろうね。真っ黒なフィルター越しに見えるこの景色とはまるで違うんじゃないかと思うんだ」


寂しそうな声だった。


「黒い瞳なんて、嫌だよ」


「どうして?」


「だって」


悪魔みたいじゃないか。


なんて、あまりにも深刻めいた声で言うものだから、


「嫌だ、煌」


可笑しくて、私はたまらず吹き出して笑ってしまった。


「そんなに綺麗な瞳の色なのに、悪魔みたいだなんて。そんなふうに思うなんてもったいないわよ」


「綺麗? どこが? 真っ黒なのに?」


不服な感情たっぷりの言いぐさで、煌は噛み付くように言ってきた。


「華穂は、真っ黒が綺麗な色だっていうのか?」


「そうよ。綺麗だわ、とっても」


頷きながら答える私の顔を不思議そうに煌が覗き込んでくる。


やっぱり、美しい瞳で。


煌の瞳の色は、ブラックのカラーコンタクトをしているように不自然なほどに真っ黒なのだ。


だけど、本当に綺麗な瞳だ。
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