フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「初めて煌に会った時にね、思ったの。この人、なんて綺麗な瞳をした男の人なのかしらって」


眩しくて、思わず目がくらんだほどだった。


あの日の事を思い出して、私はくすくす笑った。


「それで、名前を知った時、ああ、やっぱりって」


「え? 僕の名前?」


「そう。漢字。あなたは名前負けしていると言ったけれど、そんな事ないわ。煌」


煌。


きらめき。


「あなたのご両親がなぜその一字を選んだのか。あなたの瞳を見れば、一目瞭然だもの」


あなたは“きらめき”だもの。


煌。


「あ……は、はは」


一気に緊張の糸が切れたように気の抜けた声で、


「そんな事、生まれて初めて言われたよ」


と繭をハの字にして、戸惑うように煌が言った。


「君が初めてだ。そんなふうに……綺麗だなんて言ったのは」


照れくさそうでもあるし、困ったようでもあるような、曖昧な微笑み方をして煌は溜息交じりに続けた。


「大抵の人は怖いって言うからね。僕の目を」


「……怖い?」


「ああ、怖いというか……気味が悪いって。不自然な黒だから、何を考えているのか分からないって。不気味だって」


確かに、それは一理あるかもしれないと思った。


一概には否定できなくて、私は曖昧に微笑んだ。


日本で生まれ育った私でさえ硬直してしまいそうな、その毒々しいほど黒光りする瞳は、確かに作り物ではないかと疑ってしまいそうになる時がある。


「パスカルなんて、酷いんだ。僕たち、小学生の頃からの親友だっていうのに、大人になった今でも時々言うんだよ」


「パスカルが? 何て?」


「冷たい色の瞳だ、って。君は笑っているのに、瞳はいつも悲しい色をしているって」


「えええーっ! どこが? どこが?」


ガバッと起き上がり、覆いかぶさるように煌の瞳を覗き込む。


突然、ぎゃっと大きな声を出した私を、煌がぎょっとした顔で見上げてきた。
< 346 / 415 >

この作品をシェア

pagetop