フィレンツェの恋人~L'amore vero~
【8/24】


【E'glise Saint―Germain l'Auxerrois】


日付と場所だけが記されていたそれには、イタリア・フィレンツェの消印が押されていた。


『ポストカードの写真がどこの景色なのか家政婦が教えてくれて、すぐにネットで調べた。母から送られて来たのは、フィレンツェのドゥオーモのポストカードだった』


家を飛び出してから5年。


母はイタリアで生活を送っていたのだろうか。


『とにかく不思議でたまらなかったよ。母に聞きたい事がたくさんありすぎて』


このまる5年、一体どんな生活を送っていたのか。


生活費はどうしていたのか。


どんなところに住んでいるのか。


ちゃんと、食事をしていたのか。


ようやく、会えるかもしれない。


このポストカードに記されている日に、この記されている場所へ行けば、母に会える。


『戸惑いながらその日を待ちわびたよ。友人との約束もキャンセルして、その日は予定を入れないようにして。でも、どうしても、ポストカードが届いた事は、父には言えなかった。言ったら、母が父に責められてしまうんじゃないかと思ったんだ』


煌はひとりで、その日の夜明けとともにその場所へ向かった。


『朝からずっと待っていた。朝日が陽射しに変わって昼になっても待ち続けた。陽射しがやわらかな西日に変わった頃だった。教会のドアが開いて、人が入って来た』


――bello! (きれい!)


『まだ小さな男の子だった』


――……煌?


『そして、5年、待ちわびた人も』


現れたのは真っ黒な瞳の少年を連れた、5年経っても変わらない美しさを持つ煌の母だった。


『……いや、5年前よりもっと美しくなっていた。真っ白なワンピースに身を包んだ母は幽霊みたいに半透明で、本当に美しかった』


――煌、この子は、あなたの弟よ


煌の母は全てを吐き出すように、これまでの事を話しだしたのだという。

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