フィレンツェの恋人~L'amore vero~
――あの子が僕の血を受け継いでしまったばかりにこんな事になってすまない。だから、君があの子を渡さないと言い張れば、命まで狙われかねないだろう


――淑明さん……最初からそのつもりで……一緒に暮らそうなんて嘘を?


――……また君を裏切る形になってすまない。約束を守れなくて、本当に申し訳ない


――待って、淑明さん……冗談よね


――来るな。それ以上来たら、本当に君を撃たなければならなくなる。君を守れなくなる……すまない、紘子


――嫌よ!


駆け出そうとした彼女を引き留めたのは、煌だった。


母さん!


『だって……あの男、本当に引金を引こうとしたんだ』


煌に腕を掴まれ立ちすくむ彼女に銃口を向け続けたまま、男は絞り出すような声で、


――君の記憶から僕を抹消して欲しい


終始その声を震わせ、


――抹消すると約束してくれ


時々、言葉を詰まらせながら、


――そして、もう……九条に関わらないと約束して欲しい。忘れてくれ……全て。そうでないと……この手で君を消さなければならなくなるから


最後に一言だけ告げて、そのまま教会を飛び出して行った。


――……Hiroko


Ti voglio bene (君の幸せを祈っている)


待って下さい!


『僕はとっさに彼を追いかけて、教会を飛び出した。彼はちょうど車に乗り込もうとしているところでだった。僕の声に振り向いて言った彼は……』


――守って欲しい。紘子を、どうか守ってくれ


『……泣いていた、気がする』


――僕にはできない。愛している人をこの手で殺めるなんてできない。だから、君が守ってくれ


君が、紘子の息子か。


紘子によく似ているな。


とてもよく、似ている。


『そう言って、拳銃を僕に投げて来た』
< 359 / 415 >

この作品をシェア

pagetop