フィレンツェの恋人~L'amore vero~
弧を描いて飛んできた拳銃を煌が両手で受け止めたと、ほとんど同時だった。


『彼らを乗せた車は逃げ去るように急発進して、あっと言う間に僕の視界から消えた』


車が去った後の通りは本当に本当に静かで、時折、木漏れ日の中から小鳥の囀りもこぼれて、とにかく暑かった。


と、煌は話しながら肩をすくめた。


『たった今起きた出来事が幻だったようで……一体なにが起こっていたのか……把握するまで本当に時間がかかった』


ずしりと重い拳銃。


煌は鉛のようだったと話した。


だけど、煌が拳銃の弾を確認すると、たった一弾しか入っていなかったのだそうだ。


その時、呆然とする煌に降ってきたのは教会のけたたましい鐘の音だった。


我に返った煌は拳銃をジーンズのポケットに差し込んで、急いで教会の中に駆け戻った。


すると、煌の母は不思議な色に煌めく正面のステンドグラスの前にへたりと座り込んでいた。


『胸が潰れてしまいそうだった。その時の母の顔を見た時、頭が真っ白になった』


魂を抜き取られたような無色素な顔色。


何かに燃え尽きたような虚脱状態で瞬きひとつせず、水色の瞳でステンドグラスを見つめていたのだという。


『……半ば死んでいる人のようだった』


体の中まで射通すかのようなステンドグラスからこぼれ落ちる煌めきを浴びながら、煌の母は喜びも悲しみも冷たく凍りついてしまった顔で、微動だにしなかった。


……母さん


煌が声を掛けると、ほろほろと降る粉のような光に片手を伸ばし、彼女は微かな声で呟くように、言った。


――どうぞ……かまわないのに。いっそ、その手で……


笑うようなはにかむような、不思議な顔の歪め方だった。





――殺して下さい













『どうやって母を連れて帰ったのか、実はあまりよく覚えてないんだ。家に帰ると、まるで僕が母を連れて帰るのを予測していたかのように、父が待っていた』


――お帰り


『父は母や僕に何を聞くわけでもなく、責めたりしなかった。一切、しなかった。ただ、笑顔で迎え入れてくれた』
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