フィレンツェの恋人~L'amore vero~
『正直、混乱と戸惑いの毎日だった。話し方、表情、思考、全てにおいて別人格としか思えなかった』


1番最初に現れたのは“ミチル”という6歳の少女で、とても明るく天真爛漫だった。


数日後に現れたのは“リサ”。


――あんた、誰? ここどこ? 何でこんなとこいんの?


17歳の女子高校生で、言葉使いも仕草も行動もがさつで乱暴で、とにかく自由を求める人格だった。


――あんたに指図されたくないんだけど。あたしの人生なんだから


『そのリサと小さな事で口論になったことがあったんだけど』


すると、その日を境に次々に色々な人格が現れ、それはひと月ほどで10数人に及んだという。


アルコール依存症のイタリア人女性。


金銭感覚がズレている高慢なフランス人男性。


自閉症を患った中学生くらいの男の子。


自殺願望を持つ20代の女性。


暴力的で自己中心的な中年男性。


病弱な80代の老女。


それぞれに名前や成育歴があって、声色も言葉使いも、表情も仕草も、化粧の仕方すら違って、本当に全く別の人格だった。


その中でも頻繁に現れたのはミチルという少女の人格だった。


――どこに行くの? ちゃんと帰って来る? 絶対に帰って来る?


『ミチルは人懐こくて明るいけど、それ以上に孤独に対して尋常ではないくらいに執着するんだ。ひとりにされる事を本当に嫌うんだよ』


――ミチルをひとりにしたら許さないんだから


『ミチルが現れてからだ。一度も母の人格が出て来なくなった。もしかしたら、ミチルに母を消されてしまったんじゃないかって……時々、怖くなる』










――……かほ?


私が彼女に会ったのはその年の、ノエルの夜だった。


とても寒くて、まるで天使の羽根のような雪がパリの底を白く染めた夜だった。


――今夜はブルームーンね。かほ


私は、確かに、会ったのだ。


彼女は確かに“ミチル”という少女だった。


……いいえ。


違う。
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