フィレンツェの恋人~L'amore vero~
おそらく。


あの夜に私が会ったのはミチルではなかったのではないだろうか。


彼女は、鷹司紘子だったのではないだろうか。


今となってはもう確かめる術などないし、確かめる事も叶わないのだけれど。


あの瞬間、私が会ったのはきっと。


――あなたとはもっとお話をしてみたかったわ。かほ


そして、それが最初で最後だった。











フランスと日本のクリスマスの過ごし方は、まるで違う。


フランスという国が宝石であるかのように隅から隅までライトアップされ、ウインドウショッピングなどで賑わうのはクリスマス前の話。


クリスマス当日は街中がしんと静まり返る。


24日の夜は家族と一緒に夕食をとり一緒に過ごし、そして、深夜のクリスマスミサに出掛けるというのがフランス流だ。


地方からパリへ出て住んでいる人は実家の親元で過ごすのが大半で。


だから、この季節のパリは人が少ない。


24日から26日にかけては早くに店が閉店したり、休業するのがほとんど。


特に25日当日は街中が眠ったように静かになる。


逆に、年末年始は友人や恋人と賑やかに過ごすのだ。


「Kaho,Je vous souhaite un joyeux Noel! (あなたにとって素敵なクリスマスでありますように)」


ジョゼットが故郷のプロヴァンスへ発ったのは、23日。


帰りは年が明けてからの予定だ。


まさかひとりでノエルを過ごすなんて、と煌が私を自宅に招いてくれたのは24日だった。


その夕方、迎えに来てくれた煌の車に乗りこみ、ライトアップされたパリの輝きに目を細める。


「宝石の中に飛び込んだみたいね。綺麗」


人の通りが減った、イヴのパリ。


エッフェル塔もシャンゼリセ大通りも、各市役所までもライトアップされ幻想的に煌めいていた。


シャンゼリゼ大通りからもう1本北の通りに入り、予約していたブッシュドノエルを手土産に、私は妙に緊張していた。

< 364 / 415 >

この作品をシェア

pagetop