フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「どうしよう」


膝の上に乗ったケーキの箱を抱き締めるように背中を丸めてごにょごにょと呟いた私を、ハンドルを握る煌がくすくす笑った。


「君は大胆なのか小心者なのかよく分からない女性だね」


「笑いごとじゃないわ」


はふ、と溜息に似た大きな息を吐き切って、顔を上げる。


「だって、煌の家に行くのは初めてだもの。お父様もお母様もいるんでしょう」


「そうだけど」


それがどうかしたの、と涼しげに首を傾げた煌に少々げんなり気味に言った。


「やっぱり、もっと落ち着いた色の服にすれば良かった」


少しでも、華やかな煌に釣り合うようにと悩み抜いた末の赤いAラインのワンピース。


「派手過ぎたかもしれない」


例えば。


煌の家があるヴィクトル・ユゴー通りにしっくりくるような、大人ぽくて清楚でシックな色のものにしておくべきだったかもしれない。


「頑張りました感が酷い気がするでしょ、赤だなんて。見て。逆に安っぽい女に見えなくもないでしょう」


ただでさえ、煌は大企業の御曹司で、私は極一般家庭の小娘なのに。


煌の両親は私を見て、がっかりしてしまうのではないだろうか。


息子の連れて来た恋人が、どこにでもごろごろ転がっていそうな小娘で。


「髪も下ろした方が良かったかしら……」


気合を入れてハーフアップにした髪の毛にそおっと触れて、


「ねえ! 煌、何か言って!」


すがる思いで煌を睨んだ。


「困ったな」


クク、と肩を上下させて可笑しそうに吹き出した煌が、通りの片隅に車を寄せて停車させた。


「困っているのは私の方よ。笑ってばかりいないで何とか言っ――」


ぶん、と振り上げた私の右手を素早く捕まえて、


「うん。なら、正直な気持ちを言わせてもらおうかな」


と、煌が見つめてくる。

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