フィレンツェの恋人~L'amore vero~
ダークグレイ色のタートルネックのセーターに、黒のスーツジャケット。


煌は最近、妙に大人の色気があって、時々、とても遠くに感じる瞬間がある。


確かに隣にいるはずなのに。


とても、遠くに。


「何? 僕の顔に何かついてる?」


クスクス笑いながら、煌がくすぐったそうに肩をすくめる。


「ついてる」


「えっ」


「鼻がついてる」


「華穂……からかうなよ」


「からかってなんかいないわ」


しばらくその横顔に見惚れた後、私はなぜだか少しだけ寂しくなって包み込むようにケーキの箱を胸に抱き寄せた。


箱の隙間からほんのりとキャラメルソースの香りが漏れてくる。


「溶けるよ」


と煌が笑う。


「え?」


「あまり大切にすると溶けるかもしれない」


「……そうね」


そうかもしれない。


私たちの恋もそうなのではないかと思う。


不安になる。


大切にしようと慎重になればなるほど、あっけなく儚く溶けて、原型をとどめておくこともできなくなるのではないか、と。


虚しくなった。


彼と一緒に居れば居るほど、関係が深くなればなるほど。


終わりを考えて恐れて、それ以上に身分の違いを感じて、惨めになってしまう。


それに比例して、私の彼を想う気持ちも膨らんで行く一方だった。


好きで、好きで。


たまらなく、大好きで。


もう、どうすればいいのか分からなくなっていった。


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