フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「遅かったじゃない! ミチル、お腹すいた!」


飛び付いた彼女を受け止めて、煌は困ったように苦笑いした。


「ああ、遅くなってごめん。ただいま」


作り物ではないかと疑わずにはいられなかった。


疑いたくなるほど、彼女は美しかった。


真っ黒な長い髪の毛。


今にも折れてしまいそうなほどに華奢な体型。


背丈は私よりほんの少し低いくらいだった。


どこからどう見てもその外見は立派な大人の女性なのに、くるくる目まぐるしく変化する表情と、無邪気な表情と仕草は、完璧に“少女”なのだ。


「……だれ」


水色の瞳が大きく見開かれる。


彼女は私を興味深そうに見つめて、目を反らそうとしない。


「華穂っていうんだ」


煌が言うと、彼女はフウンとますます興味深そうに瞳をくるりとさせた。


品定めでもされている気分だ。


私を物珍しそうに上から下までじろじろ見つめてくる。


「は……初めまして。小嶺華穂です」


「日本人? 何歳? どうしてフランスにいるの?」


マシンガンのように質問をぶつけて来る彼女の肩をぽんと弾いて、煌がくすくす笑った。


「ミチル。詳しい話は食事をしながらにしよう。父さんは? 帰ってる?」


「あっ!」


ミチルは現実に引き戻されたように、ぱっと視線を煌に戻した。


「一度は帰って来たの。本当に。でもね、電話があって。それで、すごく急いでいる様子で出掛けちゃった。慌てた様子だったからどこに行くのか聞きそびれちゃった」


「そう」


と煌は腕時計をちらりと確認した後、


「仕事でトラぶったかな。後で連絡してみるよ」


ミチルにケーキの箱を手渡した。


「これ、なに?」


箱を受け取って、ミチルが小首を傾げる。

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