フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「開けて見てのお楽しみ。華穂からだよ」


ね、と煌に振られて私はドギマギしながら頷いた。


「開けて見てもいい……?」


ミチルが遠慮がちに聞いてきた。


私が頷くと、ミチルはぱあっと開花する花のように笑って、その場で箱を開いて中を覗き込む。


「わあ! ケーキ!」


正体が分かった途端、ミチルはうさぎのようにぴょこぴょこ飛び跳ねて、人懐こい笑顔を向けて来た。


「ありがとう、かほ! ミチル、ケーキ大好きなの」


「そう、良かった。ミチルちゃんに喜んでもらえて」


「ミチルでいい。ミチルも“かほ”って呼んでもいい?」


「もちろん」


戸惑いながら答える私をよそに、ミチルはケーキの箱を抱きしめて「リビングは上だよ」と今駆け下りて来た階段を一段飛ばしで一気に駆け上がって行った。


煌に言う事はできなかったけれど、その姿を見てやっぱり奇妙だなと思った。


姿形は大人なのに。


明らかに私よりはおそらく20も上の大人なのに。


本当に無邪気な子供なのだ。


ロングスカートの裾をたなびかせながら駆け上がって行ったのは、確かに煌の母親なのに。


でも、だけど、彼女は今、ミチルなのだ。


「奇妙な光景だろ。体も体力ももう中年なのに」


と隣で煌が吹き出して笑う。


「まるで、子供だな」


「あの……煌」


あっ、と煌が声を漏らし「今の発言は撤回」と苦笑いする。


「子供だった。ミチルはまだ6つだ」


笑いながら言ったけれど、その表情はとても寂しそうで、切なげで。


「ミチルは年を取らないんだ。人格が現れてからずっと、今も。6つのまま。面白いだろ」


そう言った煌の笑顔が、私には泣き顔に見えてたまらなかった。

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