フィレンツェの恋人~L'amore vero~
だから、「そうね」と微笑むしかなかった。


「ごめん。華穂」


ぽつ、とこぼした煌の手を握ると、


「なぜ、あなたが謝るの」


「……あれでも一応、僕の母親なんだ」


煌も握り返して来た。


煌の手は悴んだようにひやりと冷たくて、胸が軋んだ。


「なら……きちんと紹介してくれる? 私のこと。煌のお母様に。フィアンセだって」


「華穂」


「紹介、してくれる?」


「勿論だ」


手を繋いだまま見つめ合っていると、2階から透明な声が降って来た。


「いつまでそこにいるの?」


同時に顔を上げると、階段の手すりからひょっこりと顔を覗かせ、


「早く早く! ミチル、お腹ぺこぺこ。ケーキ食べたい」


無邪気にはしゃぐミチルを、私と煌はたまらず笑ってしまった。


「ああ、分かった。食事にしよう」


「ケーキを食べましょう。ミチル」













そのあと私たちは煌の父が行きつけのレストランから取り寄せてくれていたオードブルやチキンを食べて、デザートにケーキを切り分けて食べることにした。


キャラメルソースがたっぷりかかったブッシュドノエル。


そのふた切れ目をごくっと飲み込んで、突然、何かを思い出したのか「ああっ」と大きな声を出して、ミチルはテーブルを叩いた。


「どうした、ミチル」


煌が聞くと、ミチルは「すっかり忘れてた」とリビングの片隅に設置されている固定電話機を指さした。


「ふたりが帰って来る前だった。電話が掛かってきたの」

< 372 / 415 >

この作品をシェア

pagetop