フィレンツェの恋人~L'amore vero~
誰からだったのかと煌に聞かれたミチルは首を振って「分からない」とあっけらかんと返事をし、3切れ目を口に放り込んだ。


そして、口をもぐもぐさせながら「だって」と続けた。


「ミチル、冒険していたからとっても忙しかったんだもの。だから、出る前に電話切れちゃった」


私はくすくす笑ってしまった。


「冒険?」


すると、ミチルはフフンと得意げに笑い返してきた。


「そうよ。ミチルはね探偵なの」


「探偵? どういう事?」


少し身を乗り出して聞いた私を見て、ミチルは目を輝かせて意気揚々と話し始めた。


「あのね」


「うん」


「コウのお部屋にはいろんな物がたくさんあって楽しいの。だから、いつもコウのお部屋で冒険してるの、ミチル」


それでね、あのね、と話し続けるミチルの声を遮断したのは煌の咳払いだった。


「ミチル……」


私の隣で煌は呆れたとでも言いたげな表情をして、溜息を落とした。


「また勝手に僕の部屋に入ったのか」


「だって、お留守番てとってもつまらないんだもん」


口を尖らせて頬をぷくうっと膨らませたミチルに、煌はまるで父親のような口調でぴしゃりと言った。


「あれほど勝手に入るなっていつも言っているだろ」


仕事の大切な書類だってあるのに。


無くされでもしたらたまったものじゃないよ。


この間なんてパソコンをいじられてデータが全部飛んだんだ。


ブツブツこぼしながら、煌が椅子を立った。


「華穂、ちょっとごめん。仕事の書類が無くなっていないか、確認してくる」


参るよ、本当に、と煌は苦笑いしてリビングを出て行った。


閉まったリビングのドア越しに煌の遠ざかる足音が聞こえて、それが聞こえなくなったのを確認したあと、


「かほ、かほ」


ミチルがひそひそと小声で話しかけてきた。

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