フィレンツェの恋人~L'amore vero~
何をこんなに動揺しているのだろう。


冷静になろうとティーカップに手を伸ばし、口元へ運び、ぎょっとした。


琥珀色の小さな水面に映る自分の顔を見て、ごくっと唾を飲み込む。


不自然に引き攣った顔だった。


思わずティーカップをがさつにソーサーに戻す。


カシャン。


その音に目を丸くしたミチルが私の顔を扇いだ。


「ちょっとちょっと、本当に大丈夫?」


「え」


「顔、青いけど」


大丈夫。


平気。


私は言い、まだ暴れ続けてしつこい心臓をワンピースの上から押し込めるように手で抑え付け、深呼吸をした。


「かほ……大丈夫?」


「大丈夫よ」


本当に、大丈夫。


「ミチル」


そうよ。


そうじゃないの。


今、目の前にいるこの子は“ミチル”という少女なのだから。


拳銃を見つけてしまったのは、まだ無邪気な6歳の少女の“人格”なのだから。


煌の母が見つけてしまったわけでは……ないのだから。


「ごめんなさい……かほ」


弱弱しい声に顔を上げると、


「まさかこんなに驚くと思ってなかったから」


ミチルは小さくなってシュンとしていた。


「ほんの少しだけ驚かしてやろうと思っただけなの。でも、本当にごめんなさい」


「違うの、ミチル。気にしないで」


「だって! だって、嬉しかったから」


食い気味に言って顔を上げたミチルは、少しだけ泣きそうに見えた。


「ミチル、いつもひとりでお留守番で。つまらないし、寂しくて。でも、今日はかほが来てくれて。ミチルの話、おもしろそうに聞いてくれるから楽しくなって。つい……」


とミチルは言葉を飲み込み、またうつむいてしまった。
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