フィレンツェの恋人~L'amore vero~
そうか。


彼女は……いいえ。


“ミチル”という人格は、寂しいのかもしれない。


6歳の少女は本来ならば学校へ行って友達とおしゃべりをしたり勉強をしたり、遊んだりしているはずだ。


でも、この“ミチル”はそれができないのだ。


したくともできないのだ。


「ミチル」


私が呼ぶと、ミチルは弾かれたように顔を上げ、不安そうな目で見つめて来た。


なんて美しい色なのだろう。


濃い水色の瞳がくるくる輝いている。


私はにっこり微笑みを返した。


「これから時々、遊びに来てもいい?」


聞くと、ミチルの唇が薄く開き、小さな声が漏れ出した。


「……え」


「時々、遊びに来るから。私とおしゃべりをしない?」


すると、ミチルは安堵した顔つきになり、ほうっと息を吐いたあと、にっこり笑顔を返して来た。


「ミチルに会いに来てもいい?」


私の質問にミチルが返して来たものは、曖昧な仕草だった。


頷きもせず首も振らず、肯定も否定もしない。


ただ、にこりと微笑んだ。


その美しい表情には複雑な感情がいくつもいくつも混ざって見えた。


笑いたいけれど、上手に笑えないような。


泣きたいのに、どうしても涙が出て来なくて苦しんでいるような。


嬉しいのか悲しいのか、恥ずかしいのか辛いのか、悔しいのか。


おそらく、その全てを含んだ、見ているこちらが困惑せずにはいられない、あやふやな表情だった。


「よかった」


ほんとうによかった、とミチルが言った。


「コウの恋人がかほで良かった」


「どうしたの、急に」


くすぐったくて照れ隠しに笑い飛ばすと、ミチルもつられたようにふふふうっと笑った。


ミチルは椅子に両足を乗せて膝を抱きしめ、


「ねえ、かほ」


膝小僧にシャープな顎をちょこんと乗せて、真っ直ぐに私を見つめながら言った。
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