フィレンツェの恋人~L'amore vero~
間もなくドアの向こう側から足音が近づいて来て、
「ミチル! また書類ぐちゃぐちゃにして」
と疲れた顔の煌が勢い良く入って来た。
でも、ミチルは椅子の上で同じ体勢のまま動かない。
「どうしたの?」
と小首を傾げ、煌がミチルを指さす。
「ミチル?」
私も呼んでみたけれど、反応はない。
「ミチル。ミチル……」
煌がミチルの肩を揺すって、
「ああ、何だ」
安堵したように小さく笑った。
「眠ってる」
「えっ」
耳を澄ませてみると確かにすうすうと穏やかな寝息が聞こえてくる。
「すごい。この体勢のまま寝ちゃうなんて」
椅子の上で膝を抱きしめているミチルを見つめながら笑うと、煌は「珍しいわけじゃないよ」と、
「寝室に運ぼう。ごめん、手伝って。ドアを開けてくれないかな」
ミチルの脇と膝下に腕を入れてひょいと抱きかかえた。
リビングを出て真向いの一室が彼女の寝室になっていた。
女性の寝室とは到底思えない、閑雑としていて殺風景で、真ん中にベッドがあるだけの空間だった。
出窓にはカーテンもなく、プライベートも何もない無防備な空間だった。
窓の外は粉砂糖こような雪。
冬の月光がたなびくように射し込んでいる。
ベッドに横たわらせたミチルにふわふわの羽毛布団を掛けて、煌が一息ついた。
「はしゃいでいたからね。ぐっすりだ」
確かに、ミチルに起きる気配は全くない。
桜貝のような唇を薄く開き、僅かな酸素でその生命を保つかのように心地良さそうに寝息を立てている。
「良くある事なの? 突然、眠ってしまうなんて」
聞くと、煌はミチルの寝顔に優しい視線を落としながら「良くある事だよ」と笑って答えた。
「ミチル! また書類ぐちゃぐちゃにして」
と疲れた顔の煌が勢い良く入って来た。
でも、ミチルは椅子の上で同じ体勢のまま動かない。
「どうしたの?」
と小首を傾げ、煌がミチルを指さす。
「ミチル?」
私も呼んでみたけれど、反応はない。
「ミチル。ミチル……」
煌がミチルの肩を揺すって、
「ああ、何だ」
安堵したように小さく笑った。
「眠ってる」
「えっ」
耳を澄ませてみると確かにすうすうと穏やかな寝息が聞こえてくる。
「すごい。この体勢のまま寝ちゃうなんて」
椅子の上で膝を抱きしめているミチルを見つめながら笑うと、煌は「珍しいわけじゃないよ」と、
「寝室に運ぼう。ごめん、手伝って。ドアを開けてくれないかな」
ミチルの脇と膝下に腕を入れてひょいと抱きかかえた。
リビングを出て真向いの一室が彼女の寝室になっていた。
女性の寝室とは到底思えない、閑雑としていて殺風景で、真ん中にベッドがあるだけの空間だった。
出窓にはカーテンもなく、プライベートも何もない無防備な空間だった。
窓の外は粉砂糖こような雪。
冬の月光がたなびくように射し込んでいる。
ベッドに横たわらせたミチルにふわふわの羽毛布団を掛けて、煌が一息ついた。
「はしゃいでいたからね。ぐっすりだ」
確かに、ミチルに起きる気配は全くない。
桜貝のような唇を薄く開き、僅かな酸素でその生命を保つかのように心地良さそうに寝息を立てている。
「良くある事なの? 突然、眠ってしまうなんて」
聞くと、煌はミチルの寝顔に優しい視線を落としながら「良くある事だよ」と笑って答えた。