フィレンツェの恋人~L'amore vero~
きっとそのうちひょっこり出て来てくれるわよ、だなんて。


軽率な事は言えなかった。


だから、代わりに微笑みを返したつもりだったけれど。


まったく自信がなかった。


上手に笑えているかどうか、自信がなかった。


それは明確で、確実に引き攣っていたのだと思う。


そんな私の心情を察したのか、


「ごめん」


最初はバツの悪そうな、はにかむような顔をして、


「ノエルの続きをしよう」


そして、信号機のようにパッと表情を変えて、煌がすくっと立ち上がった。











「明りを消してこうした方が雰囲気が出るね」


私たちはリビングに戻り明りを消して、キャンドルを灯し、


「本当ね」


神聖な儀式が始まりそうな空間に生まれ変わった、崇高で厳かな空気に包まれたリビングで、ゆっくりと過ごした。


「ちょっと待っていて」


と言われてソファーに座って待っていると、


「日本では20歳からだったっけ。お酒が飲めるのは」


右手にワインボトルを、左手にワイングラスを2つ引っ掛けて煌が戻って来て、隣に座った。


「フランスは16歳から飲めるのにね」


と煌がグラスにワインを注ぎ入れる。


「華穂、お酒は?」


「飲んだことないわ」


「そう。でも、これならきっと飲めるよ。シャトー・ディケム。嫌でなければ少し付き合って」


とワインボトルのラベルをキャンドルの炎に当てながら、


「飲みやすいと思う」


煌がグラスを差し出して来た。


「せっかくだから、少しだけ。いただきます」


フランスでの飲酒は16歳から認められているので、私もたしなむ程度に煌に付き合う事にした。
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