フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「甘い。ジュースみたい」


「だからって飲み過ぎは禁物だよ」


「分かってる」


ソファーに並んで座り、ワインを飲みながら、キャンドルの炎が僅かに上下する様子を見つめていると、


「華穂」


煌が1杯目を空にしたグラスをテーブルに置いて、2杯目を注ぎ入れながら話しかけてきた。


「僕たちが初めて会った日の事、まだ覚えてる?」


「勿論よ」


忘れるはずがない。


あまりにも衝撃的だったし、運命的だったし、今でも鮮明に覚えている。


「ひったくりに遭った私を、煌が助けてくれたのよ」


隣に視線を移すと、煌はキャンドルの炎を見つめながら「うん」と懐かしげに笑った。


「その後、僕の夢を聞いてもらっただろ?」


「ああ、あの教会でね。ええと……サンジェルマン・ロクセロワ教会」


「うん。そう。あの日、君に話した僕の夢」


あの夢があるから、きっと僕はこうして平気でいられるんだ。


目の前でゆらゆら揺れるキャンドルの小さく仄かな炎を見つめたまま、煌は続けた。


「だから、諦めようと思った事は一度もないんだ」


その真っ直ぐで決意に誠実な横顔を見ていると、心から思う。


煌はなんてしなやかな人間なのだろう。


多感な時期に母親の愛情をろくに受けられずに育った人間とは思えないしなやかさと強さが、煌にはある。


切ないまでに孤独な過去をずっしりと背負いながら、それでも自分に誠実に生きようとしている煌は。


「……眩しい」


やっぱり、私の煌めきだ。


しなやかで強く、優しい、煌めき。


「えっ、そうかな? 眩しいかな?」


不思議そうに首を傾げながらキャンドルの炎の中を覗き込む煌の左肩に頭を持たせて、私はくすくす笑った。


「眩しい、眩しい」


「ええーっ……そう? おかしいな。だってこれ、ただの蝋燭だよ」


煌はおかしい、おかしい、と炎ばかり見つめる。
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