フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「分かった」


煌の額に触れると、


「華穂」


私の手を捕まえて、煌は静かに目を閉じた。


キャンドルのぼんやりとした灯が、煌の目元にまつ毛の影を落としている。


目の下にはくっきりとクマが残っていた。


煌は平気な顔をしているけれど、やっぱり疲れているに違いない。


学業、仕事、母親の介護。


「恋というものは恐ろしいと、つくづく思うよ」


「恐ろしい? なぜ、そう思うの?」


「うん」


目を閉じたまま小さく頷くジェスチャーをして、煌はゆったりとした口調で続けた。


「よく言うだろう。恋は精神病の一種だって」


「ああ……」


そういう意味か、と私が返すと、煌は手のひらを返したように「でも」とさらに続ける。


僕は思うんだよ、華穂。


恋は病なんかじゃない、って。


薬を処方してもらって服用すれば治るようなものとは、訳が違うって。


薬で治るようなものだったら。


仮にもしそうだったとしたら。


恋に落ちて胸が張り裂けるような切ない想いをしたり、涙を流す人間なんかいないんじゃないかって。


僕は思うんだよ。


「ね……華穂」


寝言のようにしゃべり続ける煌の髪の毛に触れ、ドキドキしながら愛しさを噛み締め、聞いた。


「なら、何だと思うの? 恋って」


「病というよりは……そうだなあ……ドラッグに近いものじゃないかと思う」


「ドラッグ?」


「そう。麻薬」


と煌は私の手を自分の口元に持って来て「知ってる?」と悪戯っぽく笑った。
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