フィレンツェの恋人~L'amore vero~
煌は“そこ”まで行くと立ち止まり、かくりと肩を落とし、ああーと気の抜けた情けない溜息を落とした。


「やる事なす事、全て……極端過ぎるんだ、いつも……母さんは」


どうするんだよ。


こんなになって。


あーあ。


そう言った煌の口調はよそ事のようで。


感情など全く込められていない言い方で、投げやりで。


立ち尽くすその後ろ姿は今にも半透明になって、終いにはフッと消えてしまいそうで。


怖くて、不安になって、私は瞬きをすることができなかった。


「……んだな」


雪は止む気配などないのに、月明かりは一段と強い光を放ち、不思議な空間に投げ出されたような感覚に陥った。


「僕の夢が叶う日はもう……来ないんだな」


呟いた直後、煌は糸が切れたマリオネットのように、雪の上に膝から崩れ落ちた。


小刻みに震えているその背中に、どんな言葉をかければいいのか見当もつかない。


でも、雪でふやけた冷たい紙を握り締めたまま、悲しみの引力に従うように煌の背後に歩みを進めた。


すくんだ震える方に触れようとして私は言葉を失い、


「ひっ……」


真正面からドンと突き飛ばされるような衝撃を受け、腰を抜かしたように尻餅をついて硬直した。


声を出したいのに、出そうとしても舌が顎に貼りついたみたいに出す事ができない。


全身から血の気が引いた。


這い蹲ってでもこの場から逃げ去りたいのに、動くことすら叶わない。


あまりの衝撃と恐怖で、ふさぎたくとも目を塞ぐ事もできなかった。


頭の中が白く溶け落ちるような感覚に言葉を飲んで、凝視した。


薄く降り積もった綿雪を解かそうとするかのように、大輪のダリアのような鮮血痕がゆっくりと広がっていく。


純白の雪が、ドライクランベリー色に染まる。
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