フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「ああ、しつこい雪だな」


と、馬鹿のひとつ覚えみたいに。


ほどなくして、私はその気配に気づいた。


通りのずっと向こうから車のエンジン音がぐんぐん近づいてくる。


同時にレーザービームのような光も迫って来て、車道の真ん中に座り込んでいた私たちを照らした。


眩しさにうっと目を細める。


パパッ、と2連続で短命に響いた単発のクラクション。


その音は地面すれすれを這うように響いて、冬の夜空へ舞い上がるように吸い込まれ、消えた。


1台の車が私たちの手前で停まり、人が降りてくる音がした。


道の真ん中に座って何をしているのか、危ないだろう、と怒鳴られると思うのだけれど、どうしても動く事ができない。


煌も動こうとしない。


さくさく、薄いビスケットを砕くような足音が斜め後方から迫ってくる。


「Kaho? Kou!」


いつも聞き馴れている温かみのこもった声に顔を上げると、温かそうなダウンコートに長身の身を包んだパスカルが立っていた。


「……パスカル」


今夜はやけに冷える。


この冬いちばんの寒さかもしれない。


小高い鼻の頭をトナカイのように赤くして、


「Joyeux Noel (メリークリスマス)」


パスカルが微笑む。


いつもと何も変わらない優しい微笑み方だった。


けれど、パスカルの表情が微妙に変化し始めるのに、そう時間は要さなかった。


「Qu'est ce qu'il y a? 」


パスカルのダウンコートは濃いネイビー色で、降り注ぐ月光を弾き返して不思議な色に見えた。


「Kaho?」


パスカルの大きな手が、私の顔を扇ぐ。


そして、怪訝な面持ちで小首を傾げ不思議そうに丸い目をくるくるさせた。


「Qu'est ce qu'il y a? (どうしたの?)」


と、パスカルは親指でくいっと煌の背中を差して、肩をすくませるジェスチャーをした。
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