フィレンツェの恋人~L'amore vero~
ふたりとも、おかしいよ。


道路の真ん中に座って。


危ないな。


この雪だっていうのに。


そんな薄着で。


喧嘩でもしたのかい。


ノエルの夜だっていうのに。


「……Non」


いいえ、と首を振るのが私にできる精一杯だった。


喧嘩だったのなら、どんなに幸せか。


喧嘩で済むのなら、いくらだってするわ。


それ以上何も言わない私や背中を向け続けている煌に、パスカルは困り果てた顔でフウと溜息を落とした。


とにかく、着替えて。


さあ、行こう。


エマニュエルの鐘に間に合わなくなるぞ。


「Kou」


聞いているのか、と苦笑いしながらパスカルが呼んでも、煌は背中を向けたまま返事は勿論、反応ひとつ示さない。


おかしなやつだな、としびれをきらしたパスカルが近づいて行き、煌の肩を叩こうとして前のめりになり、伸ばしかけた手をとっさに引っ込める。


「……Kou!」


目が飛び出しそうに見開きながら、パスカルが煌の肩をがしりと鷲掴みした次の瞬間、


「パス……カ……Pascal!」


煌は目を血走らせ、地獄へ引きずり下ろし道ずれにしようとする亡者のように、


「Pascal!」


血みどろの手でパスカルに掴みかかった。


幼い頃からの親友の目を見た途端、煌は気品のある顔立ちを崩し、やっと現実に気付いたような顔つきになった。


わなわなと震える血まみれの手でパスカルのダウンコートの袖をひきちぎるように掴む煌の手に雪が落ちて、赤く染まっていく。


「Kou! Tiens bon! (しっかりしろ!)」


そう言ってパスカルは煌の体を前後に揺すった。


その衝撃で、煌の母の手からゴトリと銃が落ちる。


その直後だった。
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