フィレンツェの恋人~L'amore vero~
悲鳴が耳をつんざいた。


見ると、通りかかった通行人女性が膝をガクガク笑わせて、煌を見ては青ざめ絶叫している。


「キャアアアアーッ」


それはヒステリーを起こして狂い出したような、ソプラノで刺すような悲鳴だった。


「Assassiner! (人殺し!)」


女性はキイキイと叫び、


「Assassiner! Assassiner!」


2,3歩後ずさったあと、逃げるように雪が舞うヴィクトル・ユゴー通りに姿をくらませた。


人殺し。


その一言が、煌の中でかろうじて保たれていた理性の糸を切ってしまったのかもしれない。


「殺し、か……そうだな」


その通りだよ、とボソと呟き、煌は再びパスカルの腕に掴みかかった。


野犬が獲物に噛み付くように。


目はつり上がりギラギラと血走っている。


「母さんは殺されたんだ」


そう言って地面に放り出された銃を睨む煌の目を見た私は、がく然とする他なかった。


同じ人間とは思えない物騒な目を煌はしていた。


その目に鳥肌が立った。


「オリオンだ……冬の星座に、母さんは殺されたんだ」


その目は憎悪と憤りに満ち溢れ、おぞましいほどに黒光りしていた。


「Pascal!」


何かを訴えようとする煌を、パスカルは全力で全てを受け止めるようにしっかりと抱き締め、奥歯を噛んだ。


「Non! Ce n'est pas vrai! (違う!)」


そう考えるのは間違っている、とパスカルは言う。


振る雪がその存在をもみ消そうとするかのように、銃に降り積もっていく。

< 402 / 415 >

この作品をシェア

pagetop