フィレンツェの恋人~L'amore vero~
彼が望むのならば何だってしてあげたいのだけれど、近づくことさえできなかった。


そして、煌もそれを望んでいるのだと思う。


私はそれが分かるのだから仕方がない。


何を根拠に、どこからそんな自信が生まれてくるのか問われると、さあ、と首を傾げるしかないのだけど。


だけど、分かる。


私は、彼の恋人なのだから。


羽毛のような雪がふわふわと落ちて来ては、煌の肩に降り積もった。


きゅっきゅと雪を踏み鳴らしながら戻って来たパスカルが、


「Kaho」


私にダウンコートを羽織らせて、風邪を引くよ、とぎこちなく微笑んだ。


そして、煌の背中にそっと語りかけるように言った。


警察と救急車を呼んだからね。


それと、君のお父さんにも連絡を入れておいたよ。


と。


雪が放つ冷たくも優しい光。


まるで、煌の瞳が放つ色と同じ色だ。


応答の無い煌の背中に月光が降り注ぐ。


ハラハラ舞う雪の降り方は激しさを増し、まるで私たちを隔てるように降り止まなかった。


「Kou」


パスカルが繰り返し呼ぶと、ようやく煌から「うん」と返事があった。


人の悲しみや後悔が行き着くところまで到達すると。


いや。


もし、その極限値を一気に超えてしまったとしたら。


その感情の行き場はどうなってしまうのだろうか。


「Merci (ありがとう)」


と振り向いた煌の顔を見て、私とパスカルは言葉を失う事になった。


固まる私たちを見て、煌は弱弱しく笑った。


「あれっ? 何て顔しているんだよ。ふたりとも」

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