フィレンツェの恋人~L'amore vero~
雪が積もった路上には血だまりができていた。


その血だまりを隠そうともがくように、雪は降り続いた。


まるで、土砂降りの雨のような無鉄砲に落下する降り方だった。


それから、猛々しい降り方をしていた雪も次第に勢力を落とし、大粒の綿雪がちらちら舞う小雪に変わり始めて間もなくだった。


パトカーや救急車のサイレンが綯い交じりながら近づき、静まり返っていた通りの周囲はいつしか騒音の渦となった。


救急隊員は煌の母を見るや否や、


「C'est affreux……(痛ましいことだ)」


残念だけど、もう……と肩をすくめ、ゆっくりと首を振りながら煌の肩を抱いた。


煌はそれを拒否し否定するような態度で、無反応を貫き通した。


その頑なで健気な姿を見た警察官たちは、なんとも痛ましいとばかりに見つめ、胸に十字を描いた。


現場検証が始まった頃、ぽつりぽつりと人が集まり始め、パトカーと救急車、警察官と野次馬でごった返しだした。


あれほどしつこく降り続いていた雪はいつの間にか止み、明るい月夜が再び戻っていた。


ひとりの警察官が背後から煌に近づき、肩を叩く。


「Kou Takatukasa?」


酷かもしれないが、と悲痛な面持ちで。


でも、一緒に来て欲しい、と言ったその口調は素っ気なを感じずにはいられなかった。


「Vous ne veux pas m'expliquer? (詳しい話を聞かせてくれませんか?」


「……Oui」


ふわりとよろめきながら煌が立ち上がる。


「Si vous voulez (いいですよ)」


ブルームーンの光を吸収し、きめ細やかな輝きを放つ雪。


幻想的かつ異様な雰囲気の中、


「Pascal,Bon,J'y vais (じゃあ、行くから)」


華穂を頼んだよ、そう言って煌は警察官と共にパトカーへ向かって歩き出した。
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