フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「煌!」


その背中を呼び止めた私の腕を優しい力で捕まえたのは、


「Kaho」


パスカルだった。


パトカーに乗り込む直前に煌は今一度夜空を見上げ、目を細めながら微かに微笑みを浮かべた。


その時、煌が言った事を理解できた人間は日本人である私だけだったに違いない。


煌は白い息を吐きながら、星空を見上げて言った。


むごいね。


なんて残酷な星座だろう。


世界中の人々から愛され、人々を魅了し、必要とされる星座なのかもしれないけど。


オリオン。


僕は許せないよ。


そう言って、煌はパトカーに乗り込み、行ってしまった。


次第に野次馬たちもはけ始め、パトカーも救急車も去って行き、通りは何事もなかったかのように時間の流れを取り戻して行く。


雪が止んだ上空は澄み切り、夜空は冬の星座たちでひしめき合っている。


せめぎ合い、競い合うように輝いている。


「……オリオン」


その中でも一等の輝きを放つ3つ星を見つめる私に、パスカルが聞いてきた。


「Qu'est ce que vous avez dit? (何て言っていたの?)」


「え?」


「Ah……Kou」


「ああ、Oui……」


だから、私はオリオン座を指さしながら、さっき煌が口にした事をフランス語に訳して伝えた。


すると、パスカルは、


月も星も夜を明るく照らすべき光であるのに。


なぜ、互いに競い合い、奪い合い、憎しみ合わなければならないのか。


皮肉なことだ、と肩をすくめ背中を丸め、最終的にはうなだれてしまった。


そして、言った。


この先の未来は煌次第になるだろう、と。
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