フィレンツェの恋人~L'amore vero~
いつもの私ならば、それはどういう意味なのかとパスカルに詰め寄っていたのだと思う。


けれど、その時の私はどの時空に存在しているのか分からないくらいに混乱していて、それどころではなかった。


私は今、過去に戻ってしまったのか、未来へ来てしまったのか。


はたまたここが本当に存在している現実であるのかさえ。


どんなに悩んでみても、答えは出てこなかった。


けれど、どう考えてみても、煌の母親が亡くなった事に変わりはなかった。












死因が精神病者の状態悪化による自殺であると断定されたとパスカルから連絡を受けたのは夜が明けてからで、私がカルチェ・ラタンのアパルトマンに戻って数時間も後のことだった。


そして、煌も釈放され自宅に戻った事も知った。


すぐに連絡を入れようかどうか本当に迷ったけれど、結局できないままプリペイド携帯を握り締めていた。


したところで、どんな言葉をかけたらいいのか分からなかった。


私の体は完全に疲れ切っていた。


眠ろうと思った。


リビングのソファーに横になり目をつむって、眠ろうと努力した。


でも、目を閉じると瞼の裏に数時間前のあの光景と、幾つもの感情が入り混じった煌の表情がまざまざと蘇り襲ってくるのだ。


体は休息と睡眠を求め悲鳴を上げているのに、眠りたくてもどうしても眠れなかった。


かといって食事は喉を通ってくれそうもないし、何も手に着かずで、ただソファーの上で膝を抱きしめ携帯を握っていた。


冬の陽射しがブラインドの隙間からたっぷりと差し込む、不自然に静かなリビングに、私ひとり。


数時間前のあの降雪が幻であったかのような冬晴れの1日を、ずっとそうして過ごした。
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