フィレンツェの恋人~L'amore vero~
ごめんなさい、華穂。


すぐに、今すぐに、パリに戻りたくてたまらない。


他の誰でもないあなたを抱きしめてあげたくてたまらないのに。


何も言わなくていいの。


パスカルから全て聞いたのよ。


とジョゼットから電話をもらったのは、その日の夕方だった。


昨晩の雪の影響でプロヴァンスから北上する全ての交通機関が止まり、再開の目途がいつ付くか分からない状況に陥ってしまっていた。


電車が動いたらすぐに飛び乗って戻るからと言うジョゼットに、無理はしなくてもいいと言ったのに、彼女はそういうわけにはいかない、と頑なだった。


私の大切な友達よ、華穂は、そう言って。


年末年始を実家でゆっくり過ごし、年が明けてからパリへ戻ってくるはずの予定を立てていたのに。


年越しは来年も再来年もあるから、と私の心配をしてくれるジョゼットの気持ちに心から感謝したし、何よりもそんな彼女の存在に私は大分救われた。


それから2日後の、朝から小雨のぱらつく寒い寒い日だった。


『Allo,Kaho? C'est Pascal (パスカルだけど)』


パスカルから連絡があったのは夕方近くで、その電話で煌の母親の葬儀が終わった事を知った。


ノートルダム・ド・グラースド・パッシー教会。


とてもじゃないけれど大企業家の葬儀とは到底思えない、極身内だけのひっそりとした簡素なものだったらしい、とパスカルは言った。


いや。


“ひっそり”というよりは“こっそり”と言うべきかな、とも。


親友の僕でさえ参列させてくれなかった、とパスカルはいささか後味が苦そうな口調だった。


歯切れの悪いパスカルの気持ちは分からなくもない。


なぜなら、私も同じだったからだ。


まるで全てを包み隠し、葬り去って消してしまおうとでもするかのような。


外部に漏れて知られては困る極秘めいたやり方に、どうも釈然としない。


葬儀の後、電話で少しだけ煌と話す事ができたと言うパスカルに、煌の様子はどうだったのか訊ねると、やはり歯切れ悪くこう答えた。

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