フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「Non」


返事をすると、受話口から落胆したような息づかいがこもりながら漏れてきた。


「……Pascal?」


「Ah……」


パスカルの溜息のつき方に、妙な胸騒ぎを覚える。


「Qu'est ce qu'il y a? (どうしたの?)」


聞きながら、その胸騒ぎは次第に嫌な予感へと変わり、確信めいたものに変化していった。


煌。


彼に、何かあったのね。


「Calmement (落ち着いて),Ecoutez (聞いて)」


と前置きしてから、パスカルは続けた。


煌が、居なくなった。


携帯に掛けても出てくれないんだ。


今、みんなで心当たりを探しているんだけど。


見つからない。


居ないんだよ。


どこにも。


だから、もしかしたら、君のところかと思ったんだけど。


「Pascal,」


私も一緒に探す、と私が言い構えたのを悟ったのだろう。


言う前に、先にパスカルが言った。


君はそこに居て、どこにも行くな、と。


「Pourquoi! (どうして!)」


無意識のうちに声が大きくなっていた。


煌が居なくなったのに。


あの、煌が。


穏やかで冷静な、煌が居なくなったのに。


こんな時だというのに、私は何もせずに居ろと言うの。


私は何もできないの。


何かをしてはいけないの。


彼のために何かをしようとする事さえ許してもらえないと言うの。


なら。


一体、私の存在は何だというの。


「Je son petit copine (私は彼の恋人であるのに)」


きっと今頃、煌はひとりで居るわ。


泣けばいいのか叫べばいいのか、分からないような表情をして。


ひとりで。


煌は……。


「Kou……C'est mon petit copain (煌は……私の恋人なのに)」


今頃、想像もできないような孤独を抱き締めて、背中を丸めているに決まってるわ。
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