フィレンツェの恋人~L'amore vero~
握り締めていたプリペイド携帯から着信のメロディが流れた。
ディスプレイで確認して、深呼吸をする。
煌からだった。
震える親指で通話キーを押しながら受話口を耳に当てる。
「……煌」
応答はない。
「煌」
もう一度呼ぶと今度は「うん」と返事があった。
「今、どこにいるの」
『……そうだな。今は、夜空の下、かな』
「ふざけないで。パスカルから電話があったの。心配していたわ。私だって心配して――」
言いかけた時、へくしょ、とくしゃみが聞こえて、私は携帯を耳に当てたまま振り向き、玄関のドアを見つめた。
今、確かにこの受話口からくしゃみが聞こえた。
それは間違いではない。
けれど。
『ごめん、華穂。もう一度言って、聞き取れなかった』
「煌……あなた、まさか」
今、その1枚のドアの向こうから聞こえてきたのもまた、確かなものだった。
『え? 何?』
「ちょっと待って」
私は携帯をソファーに投げ捨てて、玄関に向かった。
施錠を外しドアを押し開けると、冬のツンと突き刺す外気が入って来て、そこにはやっぱり煌が立っていた。
「あ……ばれた」
喪服姿で上着も羽織らずの無防備な格好で肩をすくませ、寒さに唇を震わせ苦笑いする煌の背後に、月が見える。
「いつから、居たの?」
聞くと、煌はくすぐったそうに、笑って曖昧に答えた。
「いつからなのかな。よく分からないな」
辺りに車は見当たらない。
おそらく、歩いて来たのだろう。
「僕はどこに行こうとしていたのかな」
美しい月が、やけに悲しい色に見えた。
「いろんなところをほっつき歩いていたんだけど、疲れて……気付いたらここに来ていた」
いい歳してバカみたいだろう。
そう言ってへたくそに微笑んで見せた煌を見て、胸が潰れそうになる。
ディスプレイで確認して、深呼吸をする。
煌からだった。
震える親指で通話キーを押しながら受話口を耳に当てる。
「……煌」
応答はない。
「煌」
もう一度呼ぶと今度は「うん」と返事があった。
「今、どこにいるの」
『……そうだな。今は、夜空の下、かな』
「ふざけないで。パスカルから電話があったの。心配していたわ。私だって心配して――」
言いかけた時、へくしょ、とくしゃみが聞こえて、私は携帯を耳に当てたまま振り向き、玄関のドアを見つめた。
今、確かにこの受話口からくしゃみが聞こえた。
それは間違いではない。
けれど。
『ごめん、華穂。もう一度言って、聞き取れなかった』
「煌……あなた、まさか」
今、その1枚のドアの向こうから聞こえてきたのもまた、確かなものだった。
『え? 何?』
「ちょっと待って」
私は携帯をソファーに投げ捨てて、玄関に向かった。
施錠を外しドアを押し開けると、冬のツンと突き刺す外気が入って来て、そこにはやっぱり煌が立っていた。
「あ……ばれた」
喪服姿で上着も羽織らずの無防備な格好で肩をすくませ、寒さに唇を震わせ苦笑いする煌の背後に、月が見える。
「いつから、居たの?」
聞くと、煌はくすぐったそうに、笑って曖昧に答えた。
「いつからなのかな。よく分からないな」
辺りに車は見当たらない。
おそらく、歩いて来たのだろう。
「僕はどこに行こうとしていたのかな」
美しい月が、やけに悲しい色に見えた。
「いろんなところをほっつき歩いていたんだけど、疲れて……気付いたらここに来ていた」
いい歳してバカみたいだろう。
そう言ってへたくそに微笑んで見せた煌を見て、胸が潰れそうになる。