フィレンツェの恋人~L'amore vero~
慎二を、愛していた。


でも、愛する慎二との子供だとしても、愛する事ができそうになかった。


とてもじゃないけれど、自信がなかった。


粗末にしてしまう気がして、怖くてたまらなかった。


だから、中絶した。


それが間違いだったのかもしれない。


あの時、妊娠したと言う事ができていたら、慎二は美月との関係を終わらせて私の所へ戻って来ていたもだろう。


そしてきっと今、慎二と一緒に居たのだろう。


愛する男と、一緒に。


ざあざあと大雨に打たれた気分になりながら、私はバスルームで泣き続けた。


それで、思った。


慎二の子供が欲しい、と。


儚く罪の無い命を粗末にしてしまったわたしが、そんな事を望んではいけないのに。


でも、母親に愛されない子供は可哀想だと思った。


だから、私には中絶という道しかなかった。


「私、間違っていたの……?」


愛せない子を、産むべきだったの?


一体、どうすればよかったというの?


「私はただ……愛されたかったのよ」


ただ……それだけだった。


愛する人を愛し、愛する人から愛されたかった。


「愛されて、みたかったのよ……」


本当に、それだけだった。


誰かに愛されたいだけだった。


他は、何も望まないから。


本当の愛に触れて、感じてみたかっただけなのに。










バスルームを出ると、


「じゃあ、頼んだよ。Buona notte(おやすみ、いい夢を)」


とハルの声がして、リビングへ行くとなぜかまた部屋中の電気は消されて、真っ暗になっていた。
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