フィレンツェの恋人~L'amore vero~
パコ、と音がして、それはハルが携帯電話を畳んだ音だった。


ブォナ、ノッテ……?


ハルは、誰と話していたのだろう……聞いた事のないイントネーションの語源だった。


ギシ、と軋む音がして、ハルがソファーを立った。


そして、窓辺に掛けている制服のズボンに携帯電話を突っ込んだハルに声を掛けると、


「電話、ご両親に?」


彼は弾かれたように振り向いて、


「……びっくりした。居たの、東子さん」


と目を大きくして、そして、何かをごまかしたそうに笑った。


「いつから、そこに居たの?」


「今よ。たった今、お風呂から上がったの」


「ああ、そう」


「で、心配してらっしゃったでしょう。ハルのご両親」


長い髪の毛の水滴をバスタオルで吸い取りながら言うと、


「心配してる訳ないよ。それに、両親と話していたわけでもない」


とつまらなそうな顔のハルが、ドサリとソファーに沈んだ。


「放任主義なご両親なのね、そういう事にしておくわね。なら、誰と?」


「しいて言うなら、ぼくの良き理解者であり、唯一の味方であり、そして、親友。かな」


「親友、ね」


「そう。ぼくの親友は渋いよ。六十五歳なんだ。名前はサエキジロウ。ね、渋いだろ」


「ろ、くじゅう……ご!」


間抜けな声を上げた私を見て、ハルは可笑しそうにけらけらと笑った。


「ハルは高校生でしょ? いくらなんでも、離れ過ぎじゃ」


「そう? 恋に年齢が関係ないなら、友情にも言える事だと思うんだ。ぼくはそう思う」


「まあ……そうかもしれないわね」


「ね」


はは、と苦笑いをして電気のスイッチを押そうとした時、
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