フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「絶対に付けないで!」


と今度は素早く、ハルが言った。


スイッチから指先を離す。


「今度はセーフ、良かったわね。ハル」


「うん。今度は間に合った」


へんな子。


ハルを、本当にへんな子だと思った。


「ねえ、ハルは、暗い空間が好きなの?」


ハルを拾った場所も暗い路地だったし、ちょっと目を離すと部屋は忽然と暗闇と化している。


「いや、そういう訳ではないけれど。ただ、もったいなくて」


「もったいないって。ハルが電気料金を支払う訳でもないのに」


すると、ハルはソファーに座ったまま、顔だけを私に向けた。


「東子さんは、もったいないと思わないの?」


「何を?」


「だって、こんなに良い部屋に住んでいるのに。明りを煌々と灯すなんて、もったいないったらないよ」


とハルは言い、窓の外を恍惚とした目で見つめた。


暗がりの中でもはっきりと分かる。


ハルのまつ毛は黒濃く、ますますエキゾチックに見える。


「ねえ、東子さん」


唖然と立ち尽くす私に、


「……え?」


ハルが手招きをする。


「こっちへ来て。後悔はさせないよ。ぼくの隣に座ってみて」


ゆらり、ゆらり、と上下に動くハルの手に引っ張られるように、私は素直にソファーに座った。


「ね、どう?」


「……すごいわね」


後悔はさせない。


ハルが言った事は、本当になった。


「ここに住んで五年になるけれど、全然、気づかなかったわ」


ハルの言う事を素直に聞いて良かったと思った。


「もったいない五年間を生きて来たんだね。東子さんは」
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