フィレンツェの恋人~L'amore vero~
慎二と美月が関係を持っていた事にすら気づかなかったというのに。
夜景は愚か、その夜景の足元にも及ばないほどの夜空にも気づかなかった私は、何を見ていたのだろう。
急な虚しさに襲われ、私は肩をすくめた。
お風呂上りの体から、ソープの香りがする。
不意に目が合ったのは、黒い窓ガラスに映るハルの目だった。
「綺麗だね」
ハルが言った。
窓ガラスの向こうは、億の星がせめぎ合っている。
「そうね。まるで、プラネタリウムみたいだわ」
返すと、ハルは「違うよ」と小さく小さく笑った。
窓ガラスの中で、私たちは目を合わせる。
「ぼくが言っているのは、東子さんの事だ」
「私?」
不思議な気持ちになった。
今会話をしているのはソファーに並んで座っている、私とハルなのに。
この世界にはパラレルワールドというもうひとつの空間があって、もう一人の私たちが居て。
目の前の窓ガラスの中で会話しているのを見ているような、客観的な気分になる。
「そう。会った時から思っていたんだ、ずっと。美人だなって」
自分を美人だと思った事は一度もない。
かと言って、不細工だとも。
「化粧を落とした東子さんは、もっと美人だ。どきどきする」
「呆れた。若い子ってみんなそうなの? 年上の女をからかって楽しい?」
「違うよ。からかいなんかじゃない」
窓ガラスに映るハルがむっとした顔をして、窓ガラスの中の私をキッと睨む。
「本当にそう思ったから言ったんだ。ぼくは言いたくない事は言わないけど、嘘はつかない」
正直な子だなんだわ、と思った。
だって、本当にハルは言いたくない事は言わない子だった。
絶対に。
それで、ハルは嘘を付いた事がなかった。
一度も。
出逢った時から、ハルはそういう子だった。
夜景は愚か、その夜景の足元にも及ばないほどの夜空にも気づかなかった私は、何を見ていたのだろう。
急な虚しさに襲われ、私は肩をすくめた。
お風呂上りの体から、ソープの香りがする。
不意に目が合ったのは、黒い窓ガラスに映るハルの目だった。
「綺麗だね」
ハルが言った。
窓ガラスの向こうは、億の星がせめぎ合っている。
「そうね。まるで、プラネタリウムみたいだわ」
返すと、ハルは「違うよ」と小さく小さく笑った。
窓ガラスの中で、私たちは目を合わせる。
「ぼくが言っているのは、東子さんの事だ」
「私?」
不思議な気持ちになった。
今会話をしているのはソファーに並んで座っている、私とハルなのに。
この世界にはパラレルワールドというもうひとつの空間があって、もう一人の私たちが居て。
目の前の窓ガラスの中で会話しているのを見ているような、客観的な気分になる。
「そう。会った時から思っていたんだ、ずっと。美人だなって」
自分を美人だと思った事は一度もない。
かと言って、不細工だとも。
「化粧を落とした東子さんは、もっと美人だ。どきどきする」
「呆れた。若い子ってみんなそうなの? 年上の女をからかって楽しい?」
「違うよ。からかいなんかじゃない」
窓ガラスに映るハルがむっとした顔をして、窓ガラスの中の私をキッと睨む。
「本当にそう思ったから言ったんだ。ぼくは言いたくない事は言わないけど、嘘はつかない」
正直な子だなんだわ、と思った。
だって、本当にハルは言いたくない事は言わない子だった。
絶対に。
それで、ハルは嘘を付いた事がなかった。
一度も。
出逢った時から、ハルはそういう子だった。