フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「自分を美人だと思った事は一度もないわ」


そして、私は「自分」に興味がない。


ルームウエアーから覗く、貧相な鎖骨。


髪の毛を伸ばしているのは、それを隠したいがためだ。


百六十五センチの身長に四十五キロの貧相な体に比例して、小さくて貧しい胸元だって隠せる。


私は昔から太れない体質らしい。


いや、「食」に興味が無いのだ。


あれが食べたい、とか、これを食べてみたい、という欲がない。


ある物は食べるし、無いなら食べなくてもいい。


でも、生きていればお腹は減るし、かと言って、今食べなければ死んでしまうと思った事もない。


小さい顔にしては、大き目の口。


小ぶりな鼻と、小ぶりな幅広の二重瞼。


特にこれといった特徴の無い顔を、私はしている。


ただひとつ、左目尻にある泣きぼくろを覗いて、だけれど。


「思った事なんて……」


黒い窓ガラスに映る自分の顔を見て、がっかりする。


一体、私は誰の子で、誰に似ていて、何のために生きているのか。


自分の姿顔を見れば見るほど、むなしくなる。


ハルのように特徴だらけの顔に生まれていたら、もっとマシな人生になっていたかもしれない。


ガリガリで貧相な鎖骨に触れてみる。


「もっとふくよかで、にくづきが良くて」


人より小ぶりなパーツがそろった顔を撫でてみる。


「大きな目に、西洋人のような高い鼻、小ぶりな口」


例えば、可愛らしい繭や同性見ても、可愛いと思える美月のような。


「女の子らしい顔に生まれたかったわ」


今、窓ガラスに映る私は、可愛らしさの欠片もない。


いかにも気が強そうで、髪の毛先まで、貧相だ。


「もったいないな」


甘い声で囁くように言い、ハルはフフと小さな声を出した。


「こんなに美人なのにね。これ以上の顔を、東子さんは望むの?」
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