フィレンツェの恋人~L'amore vero~
私は何も答えなかった。


ハルのように容姿端麗の人に、私のような人間の気持ちは理解できないだろうと思った。


だから、これ以上何を言ってもそれこそ無駄な気がした。


そして、ハルもそれ以上、何も言って来なかった。


リビングが静まり返る。


静寂を破ったのは、ハルだった。


「人間が贅沢になったのは、いつからなんだろうね」


「さあ。分からないわ」


パノラマのような窓の外に広がるのは、夜空にまんべんなく広がる冬の星座。


明りを消した真っ暗な空間で、ソファーに沈みながら見上げるその景色は幻想的で。


巨大なプラネタリウムを貸し切っているような、贅沢な気持ちになる。


「すごいわね。星ってこんなに数があるのね」


「そうだね。いつも明りを付けているから気づけないんだよ。もったいない」


ああ、そうだったのか。


だからハルは執拗に部屋中の明りを消したがったんだわ。


「そうね。損をしていた気がする」


ふう、と溜息を吐いた私に、


「ね、東子さん。人差し指を貸してくれる?」


と、ハルが言ってきた。


「人差し指?」


右の人差し指を突き出す。


「うん」


に、と口元に笑みをこぼしたハルは、私の手首を掴んだ。


「何をするの?」


「いいから。ぼくの言う通りにして」


そう言って、ハルは私の手首を掴んだまま右に左に、上下に動かす。


私の人差し指が、冬の夜空を漂う。


「が、ふたご座」


ハルは夜空に浮かぶ星と星を、


「で、これが、ぎょしゃ座」


私の人差し指から紡ぎだされる見えない線で結び、


「が、おうし座。うみへび座。これとこれを結んで、ペルセウス」


すいすいと冬の星座を上げて言った。
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