フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「でね、こうすると、おおいぬ座になるんだ」


私はこっそり笑いながら、ハルの言いなりになった。


「さすがにこれなら、東子さんも分かると思うけど」


ハルが私の手首を掴んで、動かす。


人差し指が、とん、とん、とん、と三ツ星を結んだ。


「が、かの有名な、オリオン座だよ」


さあ、どうだ、とでも言いたげに満足気に息を吐ききり、ハルが私の手首を離した。


「どう? 見直しただろ。こう見えて、ぼくは星に詳しいんだ」


「スウェットは知らなかったけれどね」


小さく笑い飛ばすと、ハルは機嫌を損ねた様子で、


「あ、今、ぼくをバカにした」


とぷいとそっぽを向いた。


「違うわよ。そんなつもりじゃないわ」


ごめんなさい、私が謝ると、今度は手のひらを返したような笑顔が返って来た。


「知ってる? 東子さん」


「何?」


「オリオン座の悲しい伝説」


「……伝説?」


知らない。


星になんて、まったく興味がないのだ。


「そう。とても悲しい伝説だよ」


そもそも、私はいつどこで生まれたのかさえ定かではない。


誕生日、それが本物なのかさえ。


一月二十三日、みずがめ座。


だから、自分の星座にさえ、私は興味を示した事がない。


「見て」


ハルの右手がすーっと伸びて、人差し指が冬のフルムーンを指す。


「月の女神、アルテミスは」


ハルの指はしなやかですらりとしていて、綺麗だと思った。
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