フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「ハルの好きな物を作りたいと思ったの。ありがとう、教えてくれて」
「さようでございましたか」
「今度は、サエキさんも一緒に食事しませんか」
「ありがとうございます」
「気を付けて」
「はい。失礼いたします」
とサエキジロウはとても正確な角度の会釈をして、帰って行った。
「居るのね。あんなに丁寧な人間」
呟きながらドアを開けて入ると、
「東子さん!」
ハルが清々しい笑顔で玄関先に立っていた。
「どう、これ」
真っ白なVネックのニットセーターに、ゆったりとしたデザインのジーンズに着替えていた。
「似合ってるわ」
背の高いハルが着ると、どこにでも売っているような服さえ、上質な衣類に見える。
「だろ。いつかチャンスが巡って来たら着てやろうって、購入していたんだ。結局、今日初めて着たんだけど」
「そうなの?」
ハルは、不思議な事ばかり言う。
昨晩、スウェットを着た時もそうだった。
こんなふうに、
「生まれて初めて自由になれた気がするよ」
なんて、まるでようやく人間になれたような解放感に満ちた表情をする時がある。
「ほら、ぼくはいつも窮屈な服ばかり着せられていたからね」
「ねえ、ハル」
「ん? 何?」
「サエキさんは、ハルのおじい様ではないの?」
「そんな風に見えた?」
突然、ハルは吹き出した。
「言っただろ。サエキはぼくの親友だよ。祖父じゃない。それに、祖父はもう何年も前に他界しているよ」
私はたまらなく不思議だった。
「さようでございましたか」
「今度は、サエキさんも一緒に食事しませんか」
「ありがとうございます」
「気を付けて」
「はい。失礼いたします」
とサエキジロウはとても正確な角度の会釈をして、帰って行った。
「居るのね。あんなに丁寧な人間」
呟きながらドアを開けて入ると、
「東子さん!」
ハルが清々しい笑顔で玄関先に立っていた。
「どう、これ」
真っ白なVネックのニットセーターに、ゆったりとしたデザインのジーンズに着替えていた。
「似合ってるわ」
背の高いハルが着ると、どこにでも売っているような服さえ、上質な衣類に見える。
「だろ。いつかチャンスが巡って来たら着てやろうって、購入していたんだ。結局、今日初めて着たんだけど」
「そうなの?」
ハルは、不思議な事ばかり言う。
昨晩、スウェットを着た時もそうだった。
こんなふうに、
「生まれて初めて自由になれた気がするよ」
なんて、まるでようやく人間になれたような解放感に満ちた表情をする時がある。
「ほら、ぼくはいつも窮屈な服ばかり着せられていたからね」
「ねえ、ハル」
「ん? 何?」
「サエキさんは、ハルのおじい様ではないの?」
「そんな風に見えた?」
突然、ハルは吹き出した。
「言っただろ。サエキはぼくの親友だよ。祖父じゃない。それに、祖父はもう何年も前に他界しているよ」
私はたまらなく不思議だった。