フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「でも、親友にしては変だったわ。ぎこちないというか、ハルとサエキさんはまるで」


親友と呼ぶには、あまりにも不自然に感じた。


「まるで?」


「まるで……ご主人様と召使みたいだった」


これをこうしろ、あれはああしろ、と上から目線のハル。


分かりました、かしこまりました、と飼い主に服従する犬のようなサエキジロウ。


「あなたたち、親友にしては不自然すぎだわ」


私が怪訝な目で見つめると、


「ああ。うん、確かにね。他人から見たらそうかもしれないね」


と、ハルは開き直ったような態度で、くるりと背中を向けて歩き出す。


私は、ハルの後を追いかけた。


「でも、ぼくとサエキには極自然な形なんだ。あれでも、ぼくたちの絆は誰よりも深いし、強い」


リビングに戻るや否や、


「でも、これ以上は言えない」


とハルはにっこり微笑んだ。


「またそうやって、何も教えてくれないのね」


私がムッとした態度を露わにすると、


「ごめん。言いたくないんだ」


ハルもあからさまにむっとした。


「何よ、逆切れするの?」


「違うよ。ただ、ぼくの素性を知ると、みんな態度を変えるんだ。それで、離れて行くんだ」


「ハル?」


「みんな、コロッと態度を変える」


少し、怖くなった。


また、ハルの目つきが豹変した。


「……ハル?」


あの、言葉では説明しがたいほどの強烈で野蛮な目に。


「君とは考え方も住む世界も違い過ぎる、って。そう言ってね、みんな、ぼくから離れて行く」


ハルが唇を噛む。


唇の色はみるみるうちに、紫色になった。
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