貧乏お嬢様と執事君!
もちろんそんなものなかった。
居間を出てすぐ右側にある部屋の前に立たされたお譲たちの心情を無視し、鷹司は鍵すら使わずドアノブをひねった。
そんなに力を入れていないのに、ぱきっとドアノブがとれる。
ドアと一体化していなくてはならないものが分離し、ひぃと声を上げる女子生徒。
『カイトーまた直しといてねー』
慣れている口調でそう言い、半開したドアの間に足を挟んで蹴り飛ばすと、破壊される勢いで開かれる。
『まっ入って入って』
若干かび臭い匂いのする畳。
ポツンと何故かそれだけ高級感を帯びている勉強デスクの上には、教科書が喧嘩したようにバラバラに置かれている。
妖怪の類が出てきそうな薄茶色の襖。
夢見ていた乙女たちはまたもや沈黙した。
『お嬢様ー。お茶がはいりましたー』
『あっもういいよね』
ぱたんっと異世界への扉が閉じられた。