初恋プーサン*甘いね、唇

杏奈ちゃんは、彼が初めて朗読会に来たときから参加している。


以前は、たまにお母さんと来館しては、あてもなくウロウロしているだけの子だったのに。


彼女は、誰がどう見ても彼に好意を抱いていた。


私が見こんだ人を好きになるなんて、敵(一方的視点での)ながら見る目はたしか。


だからこそ、うかうかしていられない。


いくら彼でも子供と付き合うことはないとは思うけれど、あんな可愛い子(全体的にふっくらで、マヨネーズの容器みたいな輪郭をした女の子)ならありえないことはない。


今はよきお兄さんでいても、『20年後に結婚してくれる?』なんて約束が交わされないとも言い切れない。


当時から子供が好きで、思いやりと責任感のある彼だからこそ、告白を20年間胸に秘め続け、完熟した大人の杏奈ちゃんと、見事に結ばれてしまうかも。


そうなったら……もしそうなってしまったら。


「雛子、聞いてる?」


不意に声がして、私はやっと我に返った。


「あ、うん」


「あ、うんじゃないってば。アンタまた妄想してた?」


「別に妄想なんて――」


「ありえないことだって『もしかしたら』とか思う悪癖があるじゃない。今だって、おおかた杏奈ちゃんと彼が、先々どうにかなったら、なんて考えてたんじゃない?」

< 68 / 201 >

この作品をシェア

pagetop